2013/09/02

(海外ニュース)鎮痛剤とスポーツサプリメントの組み合わせにより、レース中にランナーが死亡した事例

以前、鎮痛剤+脱水のリスクについて書きました(記事)が、こんな残念なニュースがありました。

英ガーディアン紙電子版:「Brighton Marathon runner died after reaction to ibuprofen and supplements」(ブライトンマラソンのランナー、イブプロフェンとサプリへの反応により死亡)。

4/14の英ブライトンマラソンの16マイル(26km)地点で、23才の大学院生Sam Harper Brighouseさんが倒れ、死亡するという出来事があったそうです。

その死因がやっと明らかになり、ここ数日複数のイギリスのニュースサイトで取り上げられています。(9/2現在、日本のニュースサイトはまだどこも取り上げていないようです。)


複合的な要因が重なった


今回公表された死因は腸管虚血と胃腸出血。

高熱脱水持久運動高浸透圧の「スポーツサプリメント」(記事内別箇所はジェルを示唆)、鎮痛剤の組み合わせによる「特異体質反応」が引き起こしたそうです。

レース中の死亡例は、心臓発作が多いようです。今年のピッツバーグマラソンで死亡したランナーはレアな先天的な奇形だったそうで、それも心臓系ですね。一方、今回のような死因はかなりレアだそうです。

ただ、このランナーは健康で体力もあったそうで、そうなると誰にでも起きえそうな気はしてしまいますね。

鎮痛剤はイブプロフェンで、2~4錠摂っていたようです。脱水時の鎮痛剤の危険性については過去にも書きましたので、拙記事「ウルトラマラソンの痛み止め普及率が高すぎる件」もあわせてご覧ください。

追記:水分は摂らなすぎはだめですが、摂り過ぎも危険ということはあまり知られていないようです。運動生理学者ティム・ノックス博士が摂り過ぎのリスクに警鐘を鳴らした本を出しており、過去に拙記事「新常識?水分補給は「渇く前」でなく「渇いてから」という理論」で紹介していますので、よろしければそちらもどうぞ。


エナジージェルの成分比較


スポーツサプリメント/ジェルは他のニュースも調べましたがどの種類がどれだけ摂取されたかは明かされていませんでした。ただ、よく知られた商品だそうです。

死亡時の血中カリウム濃度は通常時の3倍だったそうです。

参考までに、米国主要メーカー各社のジェルの成分表を置いておきます。カリウム(K)は英語でpotassiumです。

メーカー各社のエナジージェルの成分比較
(成分表:iRunFar.comより)


鎮痛剤を飲まれる方、事前にリスクを調べ、飲み過ぎないようにお気をつけ下さい。


追記:浸透圧の原理とハイパートニック飲料


ところでスポーツサプリメント/ジェルは成分だけが問題ではなく、濃さも重要です。脱水時に濃い飲み物を飲んでも、体液との浸透圧の関係で水分補給になりません(ナメクジに塩と同じ現象)。水分補給という意味ではスポドリは水で薄めて濃度を下げるか、水と一緒に飲むと吸収が速いです。

どういうことかもうちょっと詳しく説明すると、浸透圧はスポドリ/ジェルの成分(塩分、糖分etc)のモル濃度に比例します(ファントホッフの法則)。

浸透圧
出典:北里大学2011年度後期「化学」教材(PDF

上の図を見ると、濃さが一定になる方向に水分子が移動しています。これを見るとナメクジ体液から塩に水分が移動する仕組み、人間の体液から胃の中の濃いスポドリのほうに水分が移動する仕組みがイメージしやすいと思います。

ちなみに相対的に濃い液体はハイパートニック、薄いのがハイポトニック、体液と同じ浸透圧の濃さがアイソトニックといいます。「ハイポトニック飲料」というと神秘的な感じがしますが、極端に言えばただの薄いスポドリです。ハイパートニックな液体は脱水に繋がるので、エナジージェルなどはなるべく水と一緒に飲むと良いそうです。



ブログ内関連記事



ブログ外関連記事(浸透圧)



ブログ外関連記事(痛み止めの副作用)

  • 厚生労働省 重篤副作用疾患別対応マニュアル 急性腎不全(PDF
    • NSAIDs、ACEI、ARB による腎前性急性腎不全は有効循環血液量の減少が大きな危険因子である。有効循環血液量の減少の最も多い原因が脱水である。」
  • ウィキペディア:NSAIDs
    • NSAID(非ステロイド性抗炎症薬)系鎮痛剤は具体的にはロキソニンイブプロフェンなど。

▼記事がお役にたったら、いいね!お願いします♪




8 件のコメント:

  1. 痛み止め、もし4錠飲んでいたんだとしたら、短期間に飲み過ぎですよね・・。

    しかも彼は鎮痛剤アレルギーはなかったのでしょうか。
    私は特定の鎮痛剤飲むと具合が悪くなるので気になりました。

    健康だったとなっていますけど、喘息もあったそうだしどうだったのでしょう・・。

    どこまでなら頑張っていいのかの境界線って難しいですね。

    返信削除
  2. ちょっと論点がずれますが、それぞれのジェルで成分量が結構違うんですね。
    SCRさんがPowerbarのを選んでる理由は何かありますか?

    返信削除
  3. 相変わらずの細かいリサーチ。毎回とても勉強になります..
    しかしながら、鎮痛剤服用して走った経験は自分にもあります。確かに軽い脱水症状というか、喉の渇きを普通よりは早く感じました。しかしジェルなどと合わせて飲むと、こういう事も起こりえるとは知りませんでした。いやはや気をつけたいものです。

    返信削除
  4. 詳しい情報ありがとうございます。
    私も今、ランニング中の一番の不安は胃腸の問題です。つい簡単に市販の薬に頼ろうとしてしまいますが、やはり脱水症状にならないような準備や、暑い日でも走れるように日ごろからトレーニングしていくしかないですね。

    返信削除
  5. LondonSparrowさま

    ”perfect storm”とあるので、相性の悪い鎮痛剤に悪い条件が重なってしまった可能性もありますね。

    どこまでがんばるかの線引は、なかなかわからないですよね。夏のマラソンは特に暑くて危険ではありそうですね。

    返信削除
  6. SALTYさん、

    ですね、成分量違いますね!私はアマゾンでぱっと探した時に見つかったGU、PowerBar、クリフショットのうち、カフェインとナトリウムと値段のバランスでPowerBarにした気がします。

    返信削除
  7. Rioさま

    レース中などでどうしても痛い時は飲まざるを得ないときはありますから、おまじない代わりに持っておくおとはいいと思います。ただ脱水にはお気をつけてください!

    ジェルは濃い飲み物なので、水と一緒に飲んだほうがいいようですね。という私もたまにジェルだけで飲んでます・・・。まあ条件が重なったら危ないということなんでしょうね。。。

    返信削除
  8. Rubber Side Downさま

    暑さのトレーニングはできないようで、実はある程度できるようですね。デスバレーのバッドウォーターウルトラマラソンに出る人はサウナで対策したりするとどこかの記事で読みました。

    ただどんなに鍛えてもランに脱水はつきものなので、ウォーターボトルなどの準備は万端にしておきたい、と私も改めて思いました!

    返信削除