以下、記事が俗説とするものです。
1. ランニングにはふさわしい体型というのがある
サンディエゴ・トライクラブのコーチ、スティーブン・タリー氏は説明します。「どんな体型の人でもランナーになれます」「レースではいろんな体型といろんなストライドの人を見ることができます」【私のコメント】
体型やフォームの話は、バイオメカニクス(ランニングフォームを科学的に扱う学問領域)の専門家でも意見が割れるところのようです。「究極の理想型がある」ほうを支持する人の考えを、私が以前書いた記事から引用します。
オレゴンプロジェクトでは、スプリント練習のため2名の短距離専門コーチジョン・スミス氏とラルフ・マン氏(英語ウィキペディア)を雇っていて、後者はバイオメカニクスの博士号を持つ専門家でもあるそうです。(引用元:モハメド・ファラー所属のオレゴンプロジェクトとは?)
また、サラザール氏はインタビューでも、バイオメカニクスに基づいた理想的なフォームへの修正は必要不可欠としています(youtube)。人によって理想的なフォームがあるというのは昔の考え方とも言ってますが、指導を受けたリッツ選手はフォアフット走法への矯正で故障しているので、この考え方は個人的に賛否両論あるところだと思います。
2. ランニングの前にストレッチをすべし
トライアスロンのコーチ、ホリー・ケニー氏の説明によれば、筋肉が温まる前のストレッチは、故障のリスクが高まりますとのこと。
追記:この記事で掘り下げました「なぜ運動前の静的ストレッチは逆効果なのか?」
3. ランナーは筋トレをしなくて良い
「フルを走るには、そして回復をするには、強い筋肉が必要です」「週5日走ればマラソン完走はできるでしょう。でも自己ベストやボストン参加資格を目指すなら、筋トレは必要です」とアイアンマン世界選手権のアシスタントヘッドドクター、ジョン・マルチネス氏は言います。
【私のコメント】
またまたオレゴンプロジェクトの話ですが、「ストライドの効率とパワーの改善のため」そして何より「怪我防止のため」に高負荷・低反復の補強・筋トレを重視しており、専属のスタッフがメニューを開発しています。
一方、負荷を低く回数をこなす補強をする選手もいます。たとえば高橋尚子さんはナンバー誌での瀬古さんとの対談で、「補強練習はどうしてました? 私は毎日2000回腹筋してました。」と語っています。
どちらが正しいのか正解はあるのでしょうか。それとも「人によって違う」が正解なのでしょうか。Qちゃんは女子フルマラソンの元世界記録保持者なわけで、この補強タイプの補強が間違っていたとも思えません。仮に高負荷・低回数だったらもっと記録が伸びていたのかどうか・・・?どうなんでしょうね。
4. ベアフットランニングは怪我を減らす
前出マルチネス氏いわく、「私のところに、ミニマリストシューズで5マイル走ってみたんだけどなんで疲労骨折が起きたのか、と来る人がいます。」「トライアスリートやランナーは、速くなるものを聞きつけたら、すぐさま値段を聞いて、クレジットカードを取り出します。」その前に、十分自分自身でリサーチをしてからミニマリストやベアフットに移行してください。
【私のコメント】
追記:裸足感覚の5本指ランニングシューズ、ビブラムファイブフィンガーズ(VFF)が科学的根拠のない効果を謳ってシューズを販売したとして集団訴訟を起こされました。その結果、該当期間にアメリカでVFFを購入した人に1足最大94ドルの返金となりました。詳しくはこちらに書きました:「米ビブラムが1足最大$94の返金手続き開始」
5. 毎日走らないと速くならない
前出タリー氏いわく、「ランダムなスケジュールで走るのはダメだけど、週2、3日走ってもそれより多く走る人とほとんど変わらないぐらいのトレーニング効果がある」「その分長い距離を走ると良い」と語っています。【私のコメント】
市民ランナーの場合はそうかもしれませんね。(関連記事:週3ポイント練メソッド最強説(?))
エリートレベルの人は恐らく話が別ですね。アスリートの練習メニューを見ると週6、7日で午前午後の2部練で走っている人が多いような。
例えば先日NYCマラソンに出た選手だと、優勝のジョフリー・ムタイが週6日(メニュー)、13位のライアン・ベイルは週7日オフ日なし(メニュー)で走っています。ベイルのほうはマラソン前13週間の全練習メニューをブログで公開しており、貴重なデータです。アスリートの方には参考になるかもしれません。
6. ランニングはヒザ/健康に悪い
ランニングコーチ、カール・リーバー氏は「ランナーでない人の中には、ランニングは健康に良くないとか健康を害すると思っている人がいます」「ランニングは健康に最も良いアクティビティーの一つで、関節のダメージとランニングを関連づける研究はありません」
【私のコメント】
まあ走りすぎでヒザを壊す人もよくいますし、マラソン後は免疫力も落ちて風邪をひいてしまったりということはあると思います。(関連記事:マラソン後のダメージと回復時間)
でも、適度だと健康にいいという意見のほうが目にします。
健康にいい説
- 内科開業医のお勉強日記 - ジョギング:寿命延長 男性6.2年、女性5.6年 でも、週1時間~2.5時間が最適
- あなたの健康百科 - 心肺機能が高い人はがんにかかりにくい―米研究
- Runner's World - 6 Ways Running Improves Your Health
(ランニングがヒザ・関節・骨を強くするとあります) - Runnr's World - 5 Ways Running Boosts Brain Power
(ランニングと脳の研究成果など)
健康に悪い説
- ウォール・ストリート・ジャーナル - マラソンはチーズバーガーと同類で健康に悪影響か
7. 給水エイドには全て立ち寄ること
スポーツ医のルイス・マハラム先生によれば、「ノドが乾いてると感じた時には、すでに脱水状態で手遅れであるというのは俗説」「ノドが乾いたら飲めばいい、そうすれば過剰なハイドレーションを防げるし、お腹のトラブルが起きる可能性を減らせる」追記:この記事で掘り下げました「新常識?水分補給は「渇く前」でなく「渇いたら飲む」という作戦」
8. カリウムは痙攣防止になる
前出マルチネス氏は、最近の研究ではカリウム摂取と痙攣の相関関係は見られていないとしています。 「ティム・ノックス氏は痙攣は筋肉の疲労からくるものとしています」「痙攣とより関係あるのは、練習不足または脱水なのです」追記:この記事で掘り下げました「レースで痙攣する仕組みと対処方法」
9. ランニングは過酷であるべきである
ランニングは辛い時もあるけど、そうである必要はない。「ランニング初心者は毎日のように全力で練習しようとしてしまいます。でもゆっくり走ればもっと長い距離が走れるようになりますし、楽しいですよ!」【私のコメント】
以前も書きましたが、著名な運動生理学者、ジャック・ダニエルズ博士もこう言っています。
Your training should bring you a certain degree of enjoyment and satisfaction.(Jack T. Daniels. Daniels' Running Formula. 2nd ed. P.97より)
訳:トレーニングはある程度楽しく、満足感のあるものでなければならない
関連記事:ダニエルズの「コーチング」フォーミュラ
これに相対するのは精神論的な練習方法ですかね。日本の体育会系だと多いと思うのですが、どちらが正しいかというのはよくわかりません。ちなみに私は圧倒的に前者タイプですが…w
ただ、後者に関連した研究もあって、体が壊れる前に発動する脳(≒精神)のリミッターにより、パフォーマンスが左右されるという仮説、それがセントラル・ガバナー理論です。ただし、過酷なほうがリミッターが上がりそうな気はするものの、私は詳しく知りません。セントラル・ガバナー理論についてはこの記事でも触れました「科学的トレーニングについて知っておきたいこと<中編>」。
10. クッションのあるシューズは怪我を防ぐ
クッションのありすぎるシューズは逆に故障を招きます、とタリー氏は語ります。もしプロネーションがある人がハーフインチ(1.3cm)のジェルの入ったシューズを履いた場合、最初の2週間は心地良いでしょうが、プロネーションの度合いは悪化し、故障リスクが高まるでしょう。【私のコメント】
う~ん、これはどうなんでしょう。裏付ける論文は探したんですが見つかりませんでした。
関連した話で、柔らかい路面vsアスファルト、足にいいのはどっち?というテーマもありますね。
以前「走るのに最適なサーフェスって存在するの?」(Is There One Best Running Surface?)という気になる記事がコンペティター誌にありました。記事からまとめると、
- テキサス大のタナカ・ヒロフミ博士が手術を受けるぐらいのヒザ(PCL)を故障をしてしまった。
- 術後回復中は固い舗装路は避け、トレイルのようなやわらかいところで走るようよう主治医に言われた。
- なので柔らかい不整地で走っていたところ、今度は足首を捻ってしまった。
- 本当に柔らかい地面のほうが足にいいのだろうか。
- その話がニューヨーク・タイムズの記事になり、やわらかい地面で走ることの価値について、論争になった(この記事かな?)。
Is there one best surface?との質問に、
訳:(ランナーにとってケガのリスクが少ない)究極のサーフェスは存在しますか?
That’s the million dollar questionと答えています。地面の種類とケガの関係は、まだ科学的に解明されていないんですね。
訳:それは超難問ですね
こういう研究は被験者集めも大変(だから運動生理学の実験の被験者は学生や軍人が多い)ですし、研究費もつきにくそうで、大変ですね。
追記:違うタイプのシューズを履き回したほうが怪我のリスクが減るかもしれない、という論文(英語)が発表されました。詳しくはこちらの拙記事もご参考に:裸足系vsクッションたっぷりシューズ、フォームに違いは出るか?
以上です。
※繰り返しますが、数字が振ってある見出しの部分は記事にて俗説とされるものです。
元記事の説明不足のせいなどで一部う~ん、と思うようなのもあったんですが、みなさんはいかがでしょうか。賛否両論なのもありますね。
もし気になる項目があれば、掘り下げて調べますので教えてください♪
<追記>
掘り下げる前に、こちらの記事書きましたので、あわせてどうぞ。
関連記事(ブログ内)
- カフェインによるマラソンなど持久系スポーツへの効果と、研究による裏付け・・・最近の研究では、カフェイン利尿作用は運動中に限って言えば俗説となっているようです。
- スポーツと遺伝
面白いですね。
返信削除個人的には、研究家やドクター等は、仮説を立てて検証するのが商売なので、通説に反論したがる傾向があると思います。
それが名を馳せることにつながりますからね。
私のような素人ランナーでも、自らの実感が大切な気がします。
おお~そうですね!
削除そこらへんの注意点を最初に書いておいたほうが良さそうですね~。
お陰様で次の記事の構想ができてきました(笑)
研究はあくまで個人差があるにもかかわらず集合で結果を判断するので、個人の直感も重要ですね!!
かなりの部分は他でも見てそうかなと思っていましたが、7と8は初めてでした。先日のフルマラソンでも、足が攣ったまま15kmぐらい走ったし、給水しすぎてトイレに行きたくなったので、本当のところ知りたい部分です〜!
返信削除7は私も聞いたことなかったんですが、ちょっと調べてみると8とも関連していそうでした。
削除では7・8らへん、記事が充実するように書いてみたいと思います!
興味深い記事ですね
返信削除スポーツ、とりわけ全てのスポーツの基礎となる
ランニングの世界って定説だったものが数年後には
覆されることって往々にしてありますよね
30年前にランナーズを読んでたんですけど
15年後にまた読むようになってビックリ(*_*)
さらに15年後(←イマココw)にまた読み始めてビックリ(*_*)
30年前に記事を信じて部活に励んでたのは何だったんだ?とwww
BJさんがコメントされてますが
自らの実感っていうのが一番頼りになるのかなぁって思います
書き溜めがいっぱいあるみたいなのでw
SCRさんの見解もお聞きしたいですねぇ
おお、ランナーズ読者歴長いんですね。
削除定説変わると混乱しますけど、古いのも新しいのもどっちもある程度正しい、とかだともっと混乱してわけわかんなくなりますねww
記事の書き溜めはいっぱいあるんですが、結論がはっきりしなくてお蔵入りになってるのもあります。調べても調べてもよくわからなくて飽きて別のテーマにしてしまったり・・・w
ぽじさんに以前ツイッターでリクエストいただいたハードvsソフトなソールの記事の話もようやく10にからめて書けそうです(笑)