2013/10/01

マラソン大会におけるグロスタイムの弊害とネットタイム重視への流れ

マラソン大会の計時方法には大きく分けて「ネットタイム/チップタイム」と「グロスタイム/ガンタイム」の2種類があります。

この記事では、2つのタイムの違いや、近年のいくつかの大会の公式タイムに対する認識をまとめました。

ネットvsグロス


ネットタイム/チップタイムはスタートラインを踏んでからゴールラインを超えフィニッシュするまでのタイムです。RFIDタグのチップ(電子回路)でランナーの位置を測れるようになった現在では、スタートとゴール、さらに途中にもいくつかチップ読み取り機がある場合も。

グロスタイム/ガンタイム/クロックタイムはスタート合図(ガン=銃の号砲が合図の場合が多い?)からゴールまでの時間です。スタートラインに到着するまでのロスタイムが含まれます。

グロスタイム=公式タイムであるとしているサイトが多いですが、それは間違い。日本のほとんどの大会ではそうなんですが、最近の海外の大会ではルールが変わってきています。ボストン、NYC、シカゴマラソンのように、市民ランナーに限ってはネットタイムが公式タイムと明記するところもあります。本記事ではその背景を説明していきます。


グロスタイムの問題点


なぜ2種類のタイムがあるのでしょうか。

グロスタイムは開始時間が皆同じなので計測が楽ですし、着順=タイムが速い順となり、ゴールした人から順に順位が決定されます。アメリカの大会ではもらったことないですが、日本では完走証を紙に印刷する大会も多いそうで、すぐ順位が出せるのは利点ですね(ネットだと全員がゴールするまで順位が確定しません)。またチップ計測装置を使えないような小さな大会でもグロスは測定できます。

グロスの問題点はというと、号砲が鳴ってスタート位置からスタートラインにたどり着くまでの時間がタイムに含まれてしまうこと。大会規模によっては、スタート合図からスタートラインに辿りつくだけで、数秒~数十分かかることもあります…。これはランナーの当日の走力でコントロールできない部分です。グロスが「公式タイム」とされるような大会では、そのコントロールできない数秒~数十分が理不尽にも公式タイムに加算されてしまうのです。

グロスにこだわるあまり、スタートラインにたどり着くまでの10分20分が惜しいので、少しでも有利な場所でスタートできるようにタイムを虚偽申告したりや割り込みする人がいるそうですね。そんなことをする人が増えたら、スタートブロック分けの混雑解消効果も薄れます。しかも自己申告タイム順によるブロック分けだと、速い女性や高齢ランナーなどはエイジグループ内では速くても全体では遅いので、後ろのスタート位置は不利になります。(そこらへんを考慮したブロック分けもあるようですが)。そんなわけで、グロス偏重はちょっと問題かと。

ネットタイムのいいところは、ウエーブスタート方式(タイムやエイジグループなどでスタート時間をずらすことで混雑を解消する)ができるところ。ボストン、NYC、シカゴなど大規模の大会は同時スタートが困難で、ウエーブスタートを採用しています。例えば世界一参加者が多いマラソン大会であるNYCマラソンは、2013年はウエーブ1~4の4段階で5万人がスタート。ウエーブ1が9:40、最終ウエーブが10:55出発なので、1時間以上間隔が開いてしまい、グロスタイムだと1時間以上も余分なタイムが加算されることに…。

ネットタイム重視化の傾向(アメリカ)


ボストン・マラソンで長年レースディレクターを務めるMcGillivray氏は、「近年の多くの大会では、グロスタイムは全体の入賞者を決めるのに使い、ネットタイムは年代別の入賞者を決めるのに使う」「ボストンマラソン参加資格はネットタイムで判断」(RW - Chip Time v. Gun Time)とコメントしています。また別記事(courant.com)によれば、ネットタイムで全体の順位をつける大会も増えているそうです。

実際私が出てきた大会ではどうかというと、ピッツバーグマラソン、ピッツバーググレートレース10K、ピッツバーグ10マイラー、ラン・シェイディーサイド5Kなどは、全体/エイジグループ順位は全てネットタイムのみでランキングされています。一方エリーマラソンの場合はグロスで順位がついていました。全体入賞はどのレースもグロス順位を採用しているようでした。なお、紙の完走証は今まで会場で頂いたことはありません。

驚いたことに、日本の大会では未だにグロスで参加資格を判断する大会があると聞きました。いや、○○国際みたいなエリートだけが出るレースは別にいいんですが、市民ランナーも出る大会でそれはちょっと…。私はネットタイムも出る大会しか出たことがなかったので気付かなかったですが、調べてみるとマラソンでもグロスしか出ない大会があった(今もある?)らしいですね。日本ではそういう大会との兼ね合いや、紙ベースの完走証即時発行の伝統で慣習的に続いているのかな・・・と予想しています。

何が公式か、というのも見方によって変わってきます。陸上選手にとっては、競技ルールに則ったグロスタイムが公式なのはそうあって然るべきだと思います。ちなみに全米陸上競技連盟(USATF)のルールでは「Official timing begins with the start signal」(訳:公式タイムはスタート合図とともに計時を開始する)としています。また日本陸連のルールブックには「レースは信号器、大砲・エアホーン、その他類似の機器の発射で開始する。」とあります。

一方、レース参加者の大多数を占める市民ランナーにとっては、ウエーブや混雑による遅れは無視できない影響があり、必要悪であるタイムロスが入ったグロスタイムを公式にされるのは極めてアンフェア。そういうわけで、アメリカではネットタイムが重視される傾向にあります。

世界6大マラソン(関連記事:世界の人気マラソン大会トップ30)のうち、次の3大会はネットタイムが公式タイムです。

まず、NYCマラソンでは、リザルトページに
"Official Time" prior to the 2006 Marathon was the Gun Time. From 2006 onward, the "Official Time" is the Net Time.
(訳:2006年まではオフィシャルタイムはガンタイムでした。2006年以降はネットタイムがオフィシャルです)
と明記しています。

次にボストンマラソンは、次のように書いています。
The B.A.A. uses “net” time as your official time.
(略)
Prize money is awarded based on “gun” time.
(訳:ボストンマラソン主催のBAAは、ネットタイムを公式タイムとします。賞金はガンタイムによって決まります。)

シカゴマラソンはもうちょっと丁寧に書いていて、
Clock time (gun time) is the official time for designated elite athletes.
Official times for participants in Start Corrals A, B, C, D, E, F, G, H, J, K, L and M will be the electronic timing device time (net time)
(訳:エリートはグロスタイムが公式タイム、その他の人たちはネットタイムが公式タイム
と説明しています。

アメリカ以外の国では?

6大マラソンは、上述のアメリカ3大会以外は、ロンドン、ベルリン、東京。

ロンドンマラソンは公式タイムについての明記はサイト上に見つからなかったものの、全体順位、完走証、リザルトページの表示はすべてネットタイムで、グロスタイムはどこにも見当たりませんでした。

ベルリンと東京は、ネットとグロスを併記していました。東京マラソンの場合、ネットタイムは「参考」とはっきり書いてあります。

調べてみると、他の日本の大会もグロスを公式とするものばかり。残念ながらまだネットタイムを公式と明言する大会は見つかりませんでした…。

「昔からの競技ルールだから」「前例がないから」「主催が陸連だから」「陸連に入ってくれてるランナーを優遇したいから」などではなく、日本の大会でも現状の問題点を認識して、より合理的な運営に近づくよう変わっていく日が来るかもしれませんね…。


おまけ:チップの話


ところで、計測のRFIDチップは、昔は靴ひもに付ける形式のが主流でした。下の写真はエリーマラソンのときのですが、小さい大会なので古いタイプのです。



ただこのタイプだと、靴ひもがないシューズや裸足だと困ります(笑)ちなみに世界陸上などのルールでは、一応裸足でも走っていいことになっています。「Athletes may compete barefoot or with footwear on one or both feet.」(IAAF)。片足だけ裸足もOKらしいw

そこで最近アメリカで増えているのが、ゼッケンの一部になっているような薄いタイプ。運営側にはほんの少しコストが増しますが、着用の手間いらずです。下のゼッケン写真はピッツバーグ・グレートレース10Kのときのものですが、裏側の右端についてるのがタイム計測用のタグです。存在に気づかないぐらいの薄さ・軽さです。


アメリカでは2009年あたりから徐々にこのタイプが普及してきているそうです。ちなみに写真のはクロノトラック社のB-Tagという使い捨てUHF RFIDタグです。




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