2013/05/02

カーボローディングの必要性とカーボ摂取目安量

ちょうどマラソン前なので、メモ帳にコピペで書きためておいたカーボローディングの仕組みを一度まとめてみたいと思います。

カーボローディングが必要な理由・仕組み

マラソンの距離42.195kmは、30~35kmでエネルギーが切れるような距離。よってマラソン前は炭水化物(=糖質=カーボ)を多めに取って体内にグリコーゲンを普段より多めに貯め、ガス欠を防ごうという作戦、それが「カーボローディング」です。

用語としてはカーボでグリコーゲンをロードするので、カーボローディングでもグリコーゲンローディングでもどっちでもいいと思いますが、普段ランニング業界では前者のほうがよく使われていて、後者はちょっと学術用語的なイメージ。

カーボローディングはおまじないでもなんでもなく、研究もたくさんあったり、国際オリンピック委員会の栄養に関する公式見解も「1時間以上の競技では試合数日前~数時間前に炭水化物豊富な食べ物を摂ることが推奨」となっています。原文:「IOC Consensus Statement on Sports Nutrition 2010 」(via 陸上理論メモ)。

オリンピッククラスのトップアスリートに限ったことではなく、マラソンに出る人には有効と思われます。というのも、通常の体内のグリコーゲン量ではマラソンはガス欠になってしまうので、通常より貯めておけばその分長く走れるからです。
マラソンを科学で楽しむ
マラソンを完走するのに、どれくらいのエネルギーが必要なのでしょうか。概算ですが、体重1キログラムあたり1キロメートル走るのに1キロカロリーが必要といわれています。つまり、体重60キロの人がマラソンを走り切るのに必要なエネルギーは、
    60(キログラム)×42.195(キロメートル)
となって、だいたい2500キロカロリーです。グリコーゲンは筋肉や肝臓に蓄えられています。その量はエネルギーにして、およそ1600キロカロリーです。グリコーゲンだけではマラソンを走りきれないことがわかります。
単純計算で、フルマラソン完走に必要なカロリーから通常のグリコーゲン貯蔵量を引くと 2500 - 1600 = 900 kcal。マラソンは非常に良く出来た距離で、脂肪などもエネルギー源となるものの(後述)、何も準備しないと30~35キロあたりでエネルギー切れが起こる計算になります。よく「壁」と言われるアレです。そこで・・・
いざ、実践!カーボローディング ~理論編~
このカーボローディングを行うことにより、筋肉中のグリコーゲン量は標準のおよそ2~3倍に、肝臓のグリコーゲンは約2倍に増加するといわれています。そして、この増加は適度の糖質を摂取し、休息をすれば少なくとも3日間は続きます。また、試合の前2~3日は運動量を減らすか、休むこととしなければ効果がないという報告もあるので、試合前の練習は量や内容に注意が必要ですね。
ということで、フルマラソンの距離をバテずに完走するには、グリコーゲンローディングでエネルギー源を筋肉・肝臓にしっかり貯めこむような食事をしよう、となるわけですね。

カーボローディングの方法

古典的方法と現在の方法の2種類があり、後者はウィキペディアによると以下のとおり。

Wikipedia: カーボ・ローディング
現在では炭水化物の制限を行わず、大会(試合)の約1週間前から運動量を減らしてグリコーゲンの消費を抑えつつ、3日前から大量の炭水化物を摂取して、グリコーゲンを体内に蓄える方法が推奨されている。

くれぐれも食べ過ぎでお腹を壊さないように気をつけてください。またレース12時間前までに終わらせるのがいいそうです(その後レース3時間前までの普通の食事はOK)。

今回まだ始めていない方も、金曜、土曜と炭水化物多めの食事にして日曜のレースに備えると、効果があると思われます。

最適な炭水化物摂取量

ランナーズワールドの記事によると、カーボローディング中の食事は、摂取するカロリーの85~95%が炭水化物になるように、とのこと。
Runner's World: Fill 'Er Up
(訳)摂取カロリーの85~95%が炭水化物からになるような食事をとるべき、とカッツは語ります。ライアンは体重1kgあたり9gの炭水化物を摂るのがオススメとしています。これは例えば50kgのランナーにとっては440g(1760kcal)の炭水化物となります。
※炭水化物1g = 4kcal 

カーボローディングに必要な1日に炭水化物は、体重1kgあたり9gだそうです。体重54kgの私の場合は、1日あたり 54 × 9g = 486g = 1944kcal の炭水化物摂取が推奨されています。


カーボローディング計算機でシミュレーション

Runner's World: Fill 'Er Up
(訳)ラパポートの研究ではさらに精密な方程式を作り上げました。それにより年齢、安静時心拍数、最大酸素摂取量(VO2max)、目標タイムを考慮した必要炭水化物を計算することができます。
ラパポート氏はマラソンPRが2時間55分で、MITの電気工学で博士号を取った後、ハーバード大医学部在学中にこの研究を発表しています。こういう研究をするには理想的なバックグラウンドかもしれません(笑)

というわけで、カーボローディング中に摂るべき推奨カーボ量を教えてくれるオンラインシミュレーターの使い方を軽く解説してみます。

■ラパポート流カーボローディング計算機
http://endurancecalculator.com/EnduranceCalculatorForm.html



【入力画面】
カーボローディング計算機(入力画面)


【結果画面】
カーボローディング計算機(結果画面)

私の年齢、体重、平常時心拍数、目標タイムだと、カーボローディング期間に合計1400kcal (=350g)ほど余分に炭水化物を摂るといいということがわかりました!

ちなみにこのツールはアンドロイドアプリでも利用可です。

上で紹介したシミュレータの元になった論文が、以下のもの。

Rapoport, Benjamin (2010) Metabolic Factors Limiting Performance in Marathon Runners. PLOS Computational Biology 6(10): e1000960. doi:10.1371/journal.pcbi.1000960 (PDF)

ちょっと中身を見てみると・・・
カーボローディング:ランニングスピードに対する炭水化物の消費モデル
▲論文のFig 2(ランニングスピードに対する炭水化物の消費モデル)より。色のついたカーブはVO2maxで分けたランナーレベル。

酸素摂取能力が低いか、足の筋肉が少なくグリコーゲン貯蔵量が少ないランナーは、ペースを落とすか補給しないと30~35kmの「壁」にぶち当たることがわかります。


何を食べるべきか

メニューの注意点は、英語版ウィキペディアによると、
Wikipedia: Carbohydrate-loading
(訳)多くの持久系競技者にとって、カーボローディングにふさわしい食べ物は、血中グルコース濃度になるべく影響が少ない、グリセミック・インデックス(GI)の低いものです。一般的にGI値の低い食べ物は、フルーツ、野菜、全粒粉パスタや穀類など。こういった理由により、マラソンやトライアスロンの参加者は大会前日のディナーにパスタを大量に食べるのです。有酸素系の限界強度で運動をしたとき、筋肉はアミノ酸を大量に必要とするので、食事は炭水化物に加えて適量のタンパク質を含んだものにするべきです。

とのことで、GI値低め(ランナーのパスタパーティは定番みたいですね)かつ、タンパク質も適量含んでいる高炭水化物多めの食事が理想のようです。

追記:炭水化物の種類について、ウィキペディアとは逆に、Dr. Christopher D. Jensen の書いた記事には高GI値(+消化のいい)食べ物が勧められています。またDr. Benjamin I. Rapoportによれば、炭水化物の種類は特別重要ではないが、脚の筋肉に刺激を入れた後に中~高グリセミック指数の食事を摂るのが一番効果的としています。


消化の良い高炭水化物食のおすすめは、トルティーヤ、オートミール、パン、ホットケーキ、ワッフル、ベーグル、ヨーグルト、ジュースだそうです(注:パンはガスが出やすくなる説あり)。バナナは腹痛の原因になる繊維質が少ないので向いているそう。

日本のマラソンランナーの間では、うどんや餅(高橋尚子選手など)が人気のようです。カレーライス(川内選手)もありみたいです。その他、和風なメニューはカーボローディングの基礎知識という記事も参考になります。

炭水化物摂らなくても、ほら、この脂肪を燃やしていいから、それでエネルギーにしてちょうだい・・・?!

脂肪を有酸素系システムで燃やすことによってもエネルギーは取り出せます。ただし、そんなに効率良くエネルギー源になってくれるわけではありません。

鍋倉教授の楽しく走ってステップアップ
脂質の利用率は、主に運動強度によって変化します。強度が低いと脂質の利用率は増え、強度が高いとその割合が減ります。強度が50%程度の軽い運動では、糖質と脂質の利用比はおよそ5:5です。一方、強度が80%のやや強い運動になるとその割合は7:3となり、脂質の貢献は30%程度にまで減少します。
また、同じ運動強度であったとしても、運動時間が長くなれば脂質代謝の割合は増えていきます。例えば、80%の強度で走っていても、時間が長くなると脂質の利用率は30%より大きくなることを意味します。
 (中略)
マラソンレース中のグリコーゲンの枯渇
前述のように、長時間を要すマラソンでは、脂質のエネルギー利用率は高くなります。マラソンの強度が60%程度の初心者では、脂質の利用率が5~7割近くになります。
一方、80%以上の高い強度で走れるランナーほど、脂質の利用が減ってそのぶん糖質をより使うことになります。仮に、全エネルギー量(2540kcal:体重60kgの人)の半分程度を糖質でまかなっていると考えると、蓄えている糖質1600kcalで十分に足りるように思えます。
しかし、糖質を必要としているのは筋群だけではありません。われわれの脳活動はもまた、糖質によって維持されているのです。このことを考慮すれば、体内に蓄えられた1600kcalという糖質のエネルギー量は、マラソンを走る上で十分な量であるとはとても言えないのです。
したがって、ゆっくり走るランナーよりも、速いランナーほどエネルギー切れの可能性は高くなるのです。

速いランナーはグリコーゲンのほうが脂肪よりエネルギー源になりやすいので、グリコーゲンローディングが重要そうですね。ゆっくりランナーは脂肪の利用率が高くなるものの、やはりグリコーゲンも同時に使うので、ローディングしておくと効果がある気がします。

なお、脂肪は、たっぷりあるだけではダメなようです。

マラソンを科学で楽しむ
体脂肪率10%として脂肪は6キログラムで、エネルギーにして4万キロカロリーあります。マラソン15回以上に相当するエネルギーです。体脂肪率20%ですとその2倍です。脂肪はマラソンに有り余るエネルギーを持っているのです。

有り余るエネルギーがあっても、それを取り出しにくいのが脂肪です。脂肪を効率良く燃やせるようになるにはトレーニングが必要なようです。効率よく燃やせるようにする=脂肪に届く毛細血管を増やすトレーニングとして知られているのはLSD(Long Slow Distance)です。弱い負荷で長時間走ることで、
なぜ速筋繊維を使った練習が必要なのか
下半身に血がたまり、活性酵素などの血管新生因子などがたまっていくことで効果的にミトコンドリアや毛細血管などが増える。そうすることにより、エネルギーを多く作れ、長く速く走れるようになるといわれてきました。

とのことです。私の場合心拍数120、90~180分のLSD練習をしていました。速く走ったほうが練習した気分になりますが、それはそれで別の効果があるものの、毛細血管の成長にはつながりにくい(動脈と静脈ばかりに血流がいくから?)ので低負荷がポイントのようです。「ゆっくり走れば速くなる」理論の背景は、こういうことだったのですね。


追記:実際の食事メニュー例

備忘録がてら、今回のメニューをここにメモっておきます。
上で書いたように、私の体重だと1日あたり最低500gぐらいは炭水化物を摂取したいところ。

■3日前
  • 朝:野菜ジュース300ml(ケール、リンゴ、バナナ、オレンジ)、バナナ1本、プロテインパウダー
  • 昼:おにぎり(小)4個、ベーグル2個
  • 夜:韓国料理(チャプチェ、ビビンバ、おこわみたいなの等)、マッコリ1杯、プロテインパウダー
夜はPre-Kのパーティで、子供を預けて大人と先生でお酒を飲む日でした。アメリカはそんなのがあるんですね。テーマは日本、イタリアときて今年は韓国で、韓国料理食べ放題。もちろん炭水化物中心で食べます。炭水化物はざっと朝40g、昼220g、夜200g、計460gぐらい?

■2日前
  • 朝:野菜ジュース300ml(ケール、リンゴ、バナナ、みかん)、バナナ1本、ベーグル1個
  • 昼:おにぎり2個、ベーグル2個
  • 夜:和風パスタ(乾麺150g)、キヌアサラダ(キヌア、キュウリ、トマト、ボール1杯)、バナナ2本、ベーグル1個、プロテインパウダー、鳥肉少し
炭水化物は朝110g、昼220g、夜290g、計620gぐらい?

■1日前
  • 朝:野菜ジュース300ml(ケール、リンゴ、バナナ、オレンジ)、バナナ1本、ベーグル1個
  • 昼:冷麺、ベーグル2個、バナナ1本、ごはん(小)、オレンジジュース300ml、プロテインパウダー
  • 夜:和風パスタ(乾麺200g)、バナナ1本、オレンジジュース500ml
炭水化物は朝110g、昼310g、夜210g、計630gぐらい?

■当日朝

3時間前:餅3個
1時間半前:バナナ
1時間前:エネルギージェル

■体重増加

カーボローディング開始直前の体重は54kg(ジョギング後は53kg)、レース前日夕食後が58kg、当日朝が56kgでした。成功したみたいです!

いざ、実践!カーボローディング ~理論編~そしてもう一つ、カーボローディングを行うことで体重が増加することも知っておいてください。 蓄積されたグリコーゲン1gには約3gの水分が結合するのです。 もしも300~400gのグリコーゲンを普段より身体に多く貯めこむとなると、900~1200gの水を含め、体重はおよそ1200~1600g増加することになります。 これはパフォーマンスという点から見るとデメリットになりますよね。でも、カーボローディングが提唱されているほとんどの競技では、 グリコーゲンを増加させるメリットの方が、体重増加のデメリットを上回ると考えられているので、心配する必要はありません。 体重増加はカーボローディング成功の証と覚えておきましょう。

■成分メモ
・パスタ乾麺100g: 炭水化物 67g
・ベーグル1個: 炭水化物 70g
・ご飯 茶碗1杯 150g 炭水化物 55.7g
・バナナ1個: 炭水化物 22.5g
・おにぎり1個: 炭水化物 42g
・リンゴ1個: 14.6g
・オレンジ1個: 9.8g
・オレンジジュース100ml: 炭水化物 11g
・プロテインパウダー1回分: タンパク質25g, 120kcal


炭水化物をグラム単位で計算したい人は、こういう本もご参考に。

カーボローディングのための糖質データ本
食品別糖質量ハンドブック
アマゾンの「カロリー・食品成分表」部門のベストセラーだそうです。
(主に糖尿病を気にする人に売れてるんでしょうけど、ガチカーボローダーにもぜひ)


追記:さらに詳しく知りたい人へ

自転車乗りの人用ですが、じてトレ - グリコーゲン・ローディングに関する情報の整理もまとまっていて参考になります。

ATP合成の仕組みなど、もっと理論的な話は陸上理論メモ:エネルギーの話にあります。私は理系ですが物理・化学だけで生物は取ったことなかったので、新鮮でした。

論文などは敷居が高いけど、専門書が読みたいという方は、こんな本はいかがでしょう。
私はまだ持っていないのですが、「壁」対策のためのカーボローディング専門書(英語)です。


The New Rules of Marathon and Half-Marathon Nutrition: A Cutting-Edge Plan to Fuel Your Body Beyond "the Wall"」(フルマラソンとハーフマラソンのための最新栄養術:「壁」超えの燃料を蓄えるための最先端の戦略)

著者のマット・フィッツジェラルドさんはスポーツ栄養学の専門家で、著書18冊!コンペティター誌のシニアエディターですが、他のメディアでもたくさん記事を書いており、お名前をよく拝見します。


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